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第7回大雪山国立公園フォーラム
2003/12/27

エゾリスのくらし

南 尚貴( 旭川市博物館)


 北海道には,エゾリス,エゾシマリス,エゾモモンガとリスの仲間3種が生息しています.このうちエゾリスとエゾシマリスは,リス亜科,エゾモモンガはモモンガ亜科に属しています.エゾリスの主なすみかは,平地の林から亜高山帯の森ですが,時には大雪山系の高山帯に姿を現わすこともあります.カラマツが植林された林では少なく,ハルニレやイタヤカエデ,オニグルミなど落葉広葉樹からなる自然林でよく見られます.
旭川市の市街地近くに位置する嵐山にはリスの仲間が3種そろって生息しています.今回は,エゾリスの暮らしをスライドを使って紹介します.嵐山の森はシナノキ,イタヤカエデ,オヒョウ,キタコブシ,ミズナラ,シウリザクラなどの落葉広葉樹からなっています.
3月,固雪になる頃,エゾリスの交尾が見られます.一頭の雌のもとに何頭もの雄が集まり,雌を追いかけます.雄が繁殖に関わるのはここまでで,その後の子育ては,雌だけで行われます.
エゾリスは,樹洞に小枝や苔,樹木の内皮を敷き詰めて巣を作ります.時には木の叉に小枝を組んで,球状の巣を作ることもあります.子リスが小さいときには,樹洞を利用することが多いようです.
妊娠期間は38日前後,子リスは無毛で生まれます.出産すると母親の乳首はピンク色に目立ってきます.生後5週程で濃い毛におおわれます.この頃まで,母親は子リスと同じ巣に入っていますが,その後は,日中の休息時しか巣に戻らなくなります.やがて子リスは巣からでて巣穴の周囲で遊ぶようになり,生後2ヶ月になると子リスの行動範囲は広がって,巣のある木からあちこちへ散らばって若葉などを食べ,巣に戻るという生活をします.
この間,母親は数回巣を替えます.子リスがまだ小さいうちは一頭ずつくわえて移動します.4頭の子がいれば4回巣を往復すればいいものを,エゾリスは最後にもう1回,空っぽの巣に戻って余計に往復します.
イヌやネコが子どもを運んでいくときには,子どもの首を背中側からくわえて,ぶらぶらさせながら運んでいきます.幹を下り,枝を伝って移動するエゾリスには,この運び方はバランスがとれず向いていません.母親は,子リスの後足付け根付近を腹側からくわえ,両手で丸めるように子リスを押しつけます.そうすると子リスの頭が母親の顎の下に収まり,前肢が母親の頭にかかって子リスは動かなくなります.こうして母親は安定した姿勢を保つことができるようになります.
8月下旬になると,オニグルミの実が熟します.オニグルミの実は,数個の実がまとまって,房のようにつきます.多い房には,7〜8個の実が付いています.エゾリスは,この頃から冬に備えてクルミを集め始めます.時には,緑色の皮をかじり取って食べるものもいます.通常は,一粒ずつかじり取って,運んでいきますが,4〜5個ついた房ごと持っていくことがあります.こんな時には,木の根元まで運んだ後,一粒ずつ離してあちらこちらに埋めに行きます.
エゾリスの食べ物として,春から初夏にかけてはハルニレやオヒョウの芽や実,フキ,ヤマグワの実などが挙げられます.秋の食べ物には,オニグルミのほか,キタコブシの実やキノコ類があります.木の実はたくさんなる年とそうでない年があります.中でもキタコブシは,その差が激しく,毎年当てにはできないようです.
食べ物の種類は,住んでいる森によって違います.ここに挙げたものは,嵐山でよく利用されているものです.
雪が降ってだんだん寒くなると,エゾリスの行動時間にも変化が現れます.それまで休憩を挟みながらも朝から夕方まで活動していたのが,早朝の数時間しか活動しなくなります.この短い活動時間はもっぱら餌探しに当てられます.
エゾリスの天敵には,キタキツネやエゾフクロウがいます.エゾリスの足跡におおいかぶさるようにフクロウの羽跡がつき,わずかに血痕が雪上に残っていることもありました.
エゾリスは,昔から身近な動物として知られていました.エゾリスはキネズミ,シマリスはシマネズミと呼ばれていました.北海道の開拓が進み,森林は農耕地や牧草地として切り開かれ,またカラマツなどの植林地となって,エゾリスの生息地は減少しています.昔から身近な存在であった動物が遠い存在になることがないよう,その環境とともに後世に伝えていきたいものです.
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